原 子 力 発 電
福島第一発電所 (Google Mapより)
2019-1-27
原子の構造
☆物質は原子からできている。物質ごとに原子は異なる。
自然界で最も軽いのは陽子が1つだけの水素,次いで陽子の増える順に,ヘリウム,
リチウム,ベリリウム,ホウ素,炭素,窒素,酸素,フッ素,ネオン,ナトリウム,
マグネシウム,アルミニウム・・と続く。
自然界で最も重いものはウラン。ただし二つの原子を衝突させ,より重い原子を
人工的に合成することができる。
例)炭素12グラム中には,60000・・・(0が23個続く)の原子がある。
原子の大きさは,原子の種類によらず,約0.0000000001m (100億分の1m)
☆原子は原子核と電子からできている。原子核は陽子と中性子からできている。
原子核の大きさは,水素で原子の10万分の1,鉛で原子の1万分の1ぐらい。
陽子と中性子の重さはほぼ同じ。陽子の重さは電子の1840倍。
☆陽子はプラスの電気,電子はマイナスの電気を帯びている。
中性子は電気を帯びていない。
☆原子の種類は陽子の数によって決まる。
例) 水素(H)原子の陽子数 = 1 、 酸素(O)原子の陽子数 = 8
これを原子番号という。
☆ 陽子数=電子数となる。そのため原子は電気的に中性となる。
(イオンやプラズマは除く)
☆ 陽子数+中性子数=質量数という。
☆ 同じ陽子数の原子でも,中性子の数は一定ではない。
陽子の数が等しく,中性子の数が異なるものを同位体と言う。
例)ウラン235とウラン238 235と238は質量数。陽子数はともに92
原子核反応
なお,水素爆発は化学反応であり,水素と酸素の原子核は反応後もそのまま残る。これらの原子核が電子を共有する共有結合の状態になる。発生するエネルギーは核融合の方がはるかに大きい。
福島原発の事故時,核燃料のジルコニウム被覆が水と反応し水素が発生したことにより水素爆発が起こった。 Zr + 2 H2O → ZrO2 + 2 H2 2 H2 + O2 → 2 H2O
水蒸気爆発は,液体の水が一気に気体(水蒸気)となり体積が 1000 倍以上になることで起こる物理的現象。水蒸気爆発事故は水が高温の金属と接触して一気に水蒸気になることにより起こる。爆発前も後もH2Oのままで,化学反応でも原子核反応でもない。水素爆発よりも威力が強いが原子核反応ほどではない。
原子炉の構造
沸騰水型軽水炉 東日本で使用 メーカー:GE → 日立,東芝
加圧水型軽水炉 西日本と泊原発で使用 メーカー:ウェスティングハウス → 三菱
核燃料
天然ウラン 濃縮 原子炉用ウラン 原爆用ウラン
ウラン235 0.7% ウラン235 3%~5% ウラン235 90%以上
ウラン238 99.3%
燃料ペレットは,原子炉で使用する核燃料を磁器のように成形し焼き固めたセラミック 。融点は約2800℃。
福島原発事故時に起こったこと
まず地震発生とともに制御棒が差し込まれ核分裂反応は止まった。
ところがこの地震で送電線の鉄塔が倒れ外部電源の供給ができなくなった。
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核燃料中の核分裂生成物は,放射線を出して崩壊する。
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その際に熱を発生する(崩壊熱と言う)。この熱は核分裂反応の約7%
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原発の発電効率は約1/3.電気出力が100万kWの原子炉なら300万kWの熱を発生する。その7%は21万kW(1kWの電熱器が21万個分)
↓
通常は核燃料は冷却水で冷却される。
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ここで津波をかぶって非常用発電機も使えなくなった。
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全電源喪失と言う事態になれば,ポンプを動かずモーターが回らず冷却水が送られない。
↓
冷却水が止まれば崩壊熱でどんどん温度が上がる。
ついには融点が2800℃の燃料ペレットが溶け,下に落ちる。(メルトダウン)
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圧力容器・格納容器は鉄製なので,融点は約1500℃。溶け落ちた燃料の熱で底に穴が開き,燃料はその外に出る。(メルトスルー)
圧力急上昇による圧力容器・格納容器・配管の破壊
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メルトスルーした核燃料が地下水を汚染する。
放射性物質が大気中に放出される。広島原爆と今回の事故によって放出された放射性物質では種類 と量が異なっており、放射性セシウムについては広島原爆の約168.5倍相当。
<止まっても止まらないという,他の技術にはない,本質的な危険性>
その他の原発の問題点
・事故発生時の時間的・空間的影響が大。(長期間,広範囲)
・使用済み核燃料の処分方法が決まっていない。
フィンランドのオンカロでは地下に10万年保管 ⇒ 日本では地震が多いため困難
・ウランは化石燃料と同様に限られた資源である。
・テロの標的とされる可能性がある。
・原爆の材料(プルトニウム239)をつくることができる。
核燃料サイクル
限られたウラン資源を有効に使うために考えられた方法であり,再処理で取り出したプルトニウムを発電に使うという特徴があるが,青森県六ケ所村に建設された再処理工場は,トラブル発生のため,いまだ稼働していない。
プルトニウムが含まれるMOX燃料を通常の軽水炉で使用することをプルサーマル発電と言う。
放射線
放射性物質は,放射線を出し別の物質に変る。(出す放射線によって,α崩壊・β崩壊・γ崩壊などと言う。)
放射線の種類
・α(アルファ)線 ヘリウムの原子核(陽子2個+中性子2個)
・β(ベータ)線 電子
・γ(ガンマ)線 波長の短い(=振動数の大きい)電磁波
・X線 γ線の次に波長の短い電磁波 レントゲン撮影に使用する
・中性子線 中性子
など
電磁波:テレビ・ラジオの電波,マイクロ波,可視光線,X線,γ線など
半減期 放射線の強さが半分になるまでの時間
放射能の単位にはベクレル(Bq)を用いる。
1ベクレル(Bq)は1秒間に1個の放射性壊変をする放射性物質の量を表す。
放射線の単位には、グレイ、シーベルトを用いる。
グレイ(Gy)
物質がどれだけ放射線のエネルギーを吸収したかを表す量。1Gyは物質1kg当り、1ジュールのエネルギー吸収を与える量。
シーベルト(Sv)
Sv = 修正係数 × Gy
例えば、等価線量を算出する際には、修正係数として放射線荷重係数が使用される。放射線荷重係数は、放射線の種類によって値が異なり、X線、ガンマ線、ベータ線は1、 アルファ線は20。
mSv(ミリシーベルト) = 1/1000 (千分の1)Sv
μSv(マイクロシーベルト) = 1/1000000(百万分の1) Sv
毎時シーベルト(Sv/h) は、1時間あたりの生体への被曝の大きさの単位。
よく見かけるのは,μSv/h
毎年シーベルト(Sv/年) は、1年間あたりの生体への被曝の大きさの単位。
よく見かけるのは,mSv/年
もしmもμもつかない数値を見かけたら,とんでもなく強い線量と言うこと。
(原子炉内部の放射線量の数値など。)
高線量被爆の影響
被爆には,高線量被爆と低線量被爆がある。
高線量の場合は,直ちに急性障害が現れる。
低線量の場合は,後になってから晩発性障害が現れる。
被爆量が2Svより死者が出始め,8Svでは全員死亡する。
JCO臨界事故
1999年9月30日、午前10時35分頃、茨城県那珂郡東海村の株式会社ジェーシーオー(以下JCO)の東海事業所・転換試験棟で、3人の作業員が硝酸ウラニルを製造中、突然の青い閃光と共にガンマ線エリアモニターが発報し、臨界事故(注)が発生。3人の作業員が多量の中性子線などで被ばくした。この事故で核分裂を起こしたウラン燃料は全部で1 ミリグラムであった。
(注)臨界事故
臨界とは、核分裂反応が原子炉内のように連鎖的に起こって、継続されていく状態をいう。この事故では、原子炉施設でもない核燃料工場の一角に突如、「裸の原子炉」が出現したことになる。
<参考> 1954年の水爆実験により被爆した第五福竜丸(Lucky Dragon)の
乗組員23名の被爆量は,最低1.7Gy最大6.9Gy 死亡1名
低線量被被爆の影響
広島・長崎の被爆者を調査した結果,大体において被爆した線量が多いほどがんの発生確率が増えることが分かった。ただし100mSv/年以下の低線量では,明確な関係が現れない。これは,このような低線量では,放射線以外の原因によるがんの発生の影響の陰に隠れて,放射線の影響がはっきりしないからと考えられる。
ここで2つの代表的な考え方がある。
・しきい値説:ある線量(しきい値)以下の放射線は健康に影響を与えない。
・LNT説(Linear no-threshold 線形しきい値なし):どんなに微量の放射線でも
その線量に見合った健康への影響はある。
ICRP(国際放射線防護委員会)はLNT説を採用している。
日本における線量限度:一般人については年間1mSv、放射線作業従事者には任意の5年間の年平均で20mSv - 福島第一原発の事故後,一時的に引き上げられた。
原発の現状と今後
以下のように,全世界で,原発による発電は伸びなくなっている。
世界の趨勢は脱原発である。
それに引き換え,日本では,未だに原発に固執している。
日本で稼働中の原発がゼロだった期間
野田政権 2012年5月~2012年7月 その後大飯原発が再稼働
安倍政権 2013年9月~2015年8月 その後川内原発が再稼働
この期間に電力不足になることはなかった。
にもかかわらず,原発をベースロード電源と位置づけ,今後次々と再稼働させることが計画されている。
エネルギー基本計画(2015年)
コンバインドサイクル発電(火力発電の一種)
地球温暖化の対策として,二酸化炭素(CO2)削減が大きな課題になっている。火力発電に頼る現状では削減は望めない。しかし,原発は発電時に二酸化炭素を出さないとはいえ,前述のような問題があるので火力発電の代替にはなりえない。当面は火力発電の中でも効率の良いコンバインドサイクル発電を使用し,将来的には再生可能エネルギー中心にすべきであろう。
ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた二重の発電方式。最初に圧縮空気の中で燃料(LNG(液化天然ガス ))を燃やしてガスを発生させ、その圧力でガスタービンを回して発電を行う。ガスタービンを回し終えた排ガスはまだ十分な余熱があるため、この余熱を使って水を沸騰させ蒸気タービンによる発電を行う。
この発電方法を使うと同じ量の燃料で、通常の火力発電より多くの電力を発電することができる。したがって同じ量の電気をつくるのに、CO2の排出量が少ない。
再生可能エネルギー (自然エネルギー)
今後は,環境にやさしい再生可能エネルギーの比率を増やすことが求められる。
太陽光発電
太陽光発電は、太陽光を電力に変換して発電する。
機器の構成としては、太陽電池で光を電力に変えて、パワーコンディショナー(インバーター)で電圧や周波数を調整する。
【太陽光発電の長所】
・太陽光はほぼ無限に存在しているので、発電に際しての燃料費はかからない。
・発電機器の設置条件は「太陽光が当たる場所」だけなので、屋根の上など利用していないスペースを活用できる。
【太陽光発電の短所】
・太陽光がなければ発電できないので、夜間や雨天時は発電できない。
・それ以外の理由でも太陽光パネルが何かで遮断されると発電効率は低下する。
・その問題を解決するためには、発電施設に大型の蓄電池を併設するなどの対策が必要。
・大規模なものは設置に広大な面積が必要。(森林伐採など環境破壊の恐れあり)
水力発電
水の力で水車を回転させて、その回転動力で発電機を動かす。
【水力発電の長所】
・水力発電には燃料費がかからない。
・川や用水路の流れを使った小規模なものを数多い。
【水力発電の短所】
・もっとも重要なものは「落差」なので、山間部に発電所を建設する必要がある。
・山間部に発電所を造ると、ダムの建設やそこまでの送電線敷設の費用が余計にかかる。
・大規模な発電所の建設によって景観や人の住環境,生態系などを破壊するリスクがある。
風力発電
風力発電には、「洋上型」と「陸上型」の2種類がある。両方とも発電の原理は同じで、風の力で風車を回転させて、発電機を稼働させることにより電力を生み出す。
【風力発電の長所】
・太陽光発電と同じく、風は無限に発生し続けるので、燃料費がかからない。
・風が吹いていれば夜間でも発電が可能。
【風力発電の短所】
・風量(風力)によって発電量が影響を受ける。
・台風などによる想定外の強風によって、機器が破損してしまう恐れもある。
・低周波騒音の発生。
地熱発電
日本は世界でもまれにみる火山大国である。
マグマから発せられる地熱によって蒸気を発生させてタービンを回転させ発電する。
【地熱発電の長所】
・地熱は天候や時間による制限を受けにくいので、操業を開始すれば安定的に発電できる。
・日本の地熱資源量は、世界第3位(2,347万kw)と言われている。
【地熱発電の短所】
・安定的な発電量を得るためには綿密な地質調査が必要で、開発にも膨大な費用がかかる。
・地下1,500~3,000mに存在する高温蒸気を掘り当てる必要があるため、開発にかかるリスクやコストが非常に高い。
・候補地が国立公園や国定公園に指定されていることが多く普及のハードルとなっている。
バイオマス発電
生ごみや可燃ごみ、木屑といったバイオマス燃料をつかった発電方法。
「生物由来の有機資源から化石資源を除外したもの」を原料とする発電なので、バイオ(生物)+マス(多量)と名付けられた。バイオマス発電の基本原理は、何らかの方法で蒸気やガスを発生させ、その力でタービンを回し発電するというもので、火力発電と同じ。
バイオマス発電でも二酸化炭素(CO2)は発生する。発生するCO2はもともと地球上に存在したものなので、トータルで量を増やしているわけではない、
【バイオマス発電の種類と燃料(3種類)】
・乾燥材(建築に際して発生した廃材やもみ殻など)
・湿潤材(食品廃棄物や家畜のふん尿など)
・その他(古紙や産業食用廃油など)
【バイオマス発電の長所】
・必要に応じて燃料を投入すれば理論上は発電し続けられる。
・発電量が見込めてかつ発電量が調整できる。
・基本原理は火力発電と同じなので、火力発電所にバイオマス燃料を一部混合させることも容易に行える。
【バイオマス発電の短所】
・バイオマス発電は燃料コストがかかる。そのコストは、近年高騰しつつある。