「N高政治部」 志位委員長の特別講義
2021年2月21日(日)
資本主義への疑問点から、日本共産党がめざす社会像まで
高校生に志位委員長、大いに語る
日本共産党の志位和夫委員長は17日、インターネットと通信制を活用した私立高校「N高等学校」の「政治部」特別講義で、生徒からの質問に答えて、資本主義への疑問点や共産党がめざす社会主義・共産主義、「アメリカ言いなり」「財界中心」をただす民主主義革命、憲法9条と自衛隊、天皇の制度などについて語りました。1万4602人がリアルタイムで視聴し、大好評だった特別講義の内容を連載します。
特別講義の司会はN高特別講師の三浦瑠麗(るり)氏(国際政治学者)。前半は、高校生から事前に寄せられた質問に志位委員長が答える形で進行しました。
<<9回連載>>
(1)資本主義の疑問点 21世紀も続けていいのか (2021年2月21日付)
(2)自衛隊 日本の安全 どうする 平和の地域協力広げよう(2021年2月22日付)
(3)新型コロナ 給付金は有効か 事業が続けられる補償を(2021年2月23日付)
(4)日本共産党がめざす社会像 「国民が主人公」といえる日本つくる(2021年2月24日付)
(5)日本の危険性、可能性 共闘、連帯にこそ希望がある(2021年2月25日付)
(6)大企業への民主的規制 力にふさわしい社会的責任を (2021年2月26日付)
(7)道州制・地方行革 コロナ危機ふまえ見直しを(2021年2月27日付)
(8)共産主義、天皇制 「各人の自由な発展が万人の自由な発展の条件」に(2021年2月28日付)
(9)一問一答とメッセージ 高校生と視聴者のみなさんへ (2021年3月1日付)
「N高政治部」 志位委員長の特別講義(1)
資本主義の疑問点 21世紀も続けていいのか
Q 資本主義の今の形への疑問点を、幸福度などの観点から伺いたいです。
超富裕層が資産を増やす一方で、多くの人々が困窮に陥っている
志位 資本主義の疑問点はというご質問ですが、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)がおこり、そのなかで資本主義がもっていた矛盾が噴き出しているというのが現状です。「資本主義をこのまま続けていいのか」という疑問が、立場の違いを超えて、いろいろな方から語られているのが新しい特徴だと思います。
それは大きく言って二つ、あると思います。
一つは、貧富の格差の拡大という問題です。これはもともと資本主義のもとでずっと広がってきたものですが、パンデミックが起こってこれがいよいよひどいものになっています。
これは、アメリカの雑誌の『フォーブス』に掲載されたデータから作ったグラフ(パネル1)です。
世界と日本のビリオネア――資産10億ドル以上の超富裕層の資産がどうなったかという推移を示しています。
黄色い棒が、世界のビリオネアの資産の推移ですが、この1年間で8・0兆ドルから12・8兆ドルに1・5倍になっています。赤い棒は、日本のビリオネアの資産の推移ですが、この1年間で12・2兆円から24・4兆円に、ちょうど2倍になっています。コロナ危機のもとで、超富裕層は世界全体では1・5倍、日本では2倍に資産を増やしているのです。こういう現実が一方であります。
他方で、多くの人々の暮らしはどうなっているか。多くの学生のみなさんが、アルバイトがなくなり学費が払えない、食うや食わずの困窮状態に陥っています。文部科学省の調査でも、コロナのために休学・退学を余儀なくされた学生が5800人にものぼります。
女性の困窮が深刻です。野村総研の試算では、コロナで仕事がなくなったり、減ったりしながら、休業手当を得ていない、「実質的失業者」になっている女性が、90万人にのぼっています。多くの女性が、小売業、飲食業、宿泊業などで、パート・アルバイトなど不安定な非正規で働き、いまたいへんな困窮に陥っているのです。
子どもの貧困も深刻になっています。もともと子どもの貧困は、日本は特にひどくて、7人に1人の子どもが貧困のもとにおかれ、母子家庭の場合は2人に1人が貧困という状況です。コロナで多くの子どもたちが、いっそうつらい状態に追い込まれています。
世界と日本のビリオネアが資産をどんと増やす一方で、困窮者が広がっている。これが今の資本主義の現実なのです。こんな社会でいいのかということが、問われているのではないでしょうか。
地球環境の破壊――新しい感染症の多発、きわめて深刻な気候危機
志位 もう一つの大きな問題は、地球規模での環境破壊です。
いま新型コロナが大問題になっていますが、この30年間で少なくとも約30の新しい感染症が世界で出現しています。エイズ、エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、そして今度の新型コロナウイルス感染症などです。出現頻度が高いわけです。これは人間の経済活動によって自然環境が壊されてきた結果なのです。生態系が壊され、熱帯雨林が破壊され、動物が持っていたウイルスが人間に移ってきて、新しい感染症が次々生まれています。これが資本主義のもとで起こっているわけです。
さらに人類の前途にとってたいへんに深刻な問題が、気候危機という問題です。これは環境省のつくった「2100年の夏の天気予報」(パネル2)というものですが、いまの地球温暖化が抑えられなかったらどうなるかを示すものです(三浦氏「すごく高い温度ですね」)。ええ。日本列島が、沖縄をのぞいてすべて最高気温40度以上です。
それからもう一つ、台風がスーパー巨大台風になって、「中心気圧870ヘクトパスカル、瞬間最大風速90メートル」、こういうスーパー巨大台風がどんどん襲ってくることが予測されています。
すでに人間の経済活動によって、産業革命時と比較して、地球の平均気温は1度上がってしまっています。これを「パリ協定」では「1・5度以内」に抑えなければならないとなっているのですが、現在提出されている各国の目標の合計では、21世紀末には3度上がってしまうというのです。そうしますと灼熱(しゃくねつ)地獄のような世界になってしまう。
これは文字通りの、気候危機です。これをどうするのかという問題が待ったなしで問われています。
“多くの人たちの不幸の上に巨大な富が築かれる”というシステム
志位 「幸福度の観点から伺いたい」というご質問でしたね。もちろん資本主義のもとで人類は、いろいろな巨大な進歩をかちとってきましたが、今お話しした格差の問題、環境の問題を考えますと、一言で言って、資本主義というシステムは、“多くの人たちの不幸の上に巨大な富が築かれる”というシステムだと思います。
ですから、私は、このシステムを21世紀もずっと続けていいのかということが、いま問われていると思います。
お話しした資本主義のいろいろな矛盾の根っこには、無制限に利潤――もうけを増やす、そのために「生産のための生産」に突き進む、資本主義の「利潤第一主義」の矛盾があります。
このシステムを乗り越えて、そのさきの社会に進む、私たちはこれを社会主義と呼んでいるのですが、世界史的にいうと社会主義の出番の時代が、大局的にはやってきたと考えています。
金融経済が実体経済から離れて肥大化していくという異常な事態
志位氏の発言に対し司会の三浦氏が「確かに最近、資本主義に対する見直しという文脈で、環境問題に対する関心が高まっています」と応じました。三浦氏は、超富裕層の資産が急増していることにかかわって、実体経済と金融経済の隔たりについて聞きました。
志位 超富裕層が短期間にこれだけ富を増やしたのは、政府と中央銀行がどんどんお金を出し、そのお金の行き先がなくなって富裕層のところにたまっているところに原因があります。国民のところにお金が回らないわけです。
一方で中央銀行などがお金を出して株価が急騰し、富裕層はもうかるのですが、国民の側は、消費も、雇用も、営業も危機的です。たとえば飲食店は営業時間短縮が強いられ、休業せざるを得ないお店も多いという、本当につらい状態が続いています。もうこれ以上自粛を続けたらお店がもう持たないという悲鳴がたくさん日本列島であがっています。
実体の経済はとても苦しいですよね。困窮者がどんどん増える状況がある。ところが金融経済――マネーゲームの方はとても盛んで、そっちの方はどんどんもうけていく。たいへんな乖離(かいり)が生まれています。
資本主義というシステムの中で、金融経済が実体経済から離れて独り歩きし、肥大化していくという異常な事態が、いまあらわれているのです。(つづく)
「N高政治部」 志位委員長の特別講義(2)
自衛隊 日本の安全 どうする 平和の地域協力広げよう
Q 自衛隊は憲法違反という立場を取られていますが、災害などの時には自衛隊の助けは必要だと思います。今後、どのような位置づけで自衛隊は活動すべきだと思われますか。日本共産党は、自衛隊は憲法違反であり、「自衛隊がいなくても安心だ」と国民に思ってもらえるよう段階的解消を目標にしているとHP(ホームページ)で読みました。しかし、ただ単に「憲法違反だから」や「国際紛争には平和的解決をめざすべきだから」ということを言っているだけでは国民が安心することは不可能だと思います。実際に国民が安心と思えるために、何をすべきか具体策はあるのでしょうか。
国民多数の合意で、9条の理想にむけ一歩一歩、自衛隊の現実を変える
志位 まず、自衛隊のそもそも的な位置づけについてのご質問についてお答えします。
憲法9条には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と書いてあります。自衛隊はどうみてもこれは戦力ですね。ですからこれは、どうしても矛盾するわけです。
この矛盾の解決方法は二つしかありません。一つは、自衛隊の現実にあわせて憲法9条を変えることです。もう一つは、憲法9条の理想にあわせて自衛隊の現実を変えることです。
私たちは後者を選びたいと考えています。憲法9条は、恒久平和主義をとことん推し進めた世界でも先駆的な条項だと考えていますから。
ただ、これは一挙にはできません。国民の多数の合意を得て、一歩一歩、憲法9条という理想に向けて現実を変えていく、このプロセスがかなり長く続くと考えています。
その期間に、たとえば日本に対する主権侵害があった場合には、自衛隊を活用します。あるいは大きな災害があったときには、当然、自衛隊員のみなさんには頑張っていただきます。そういう期間には、私たちはこのように自衛隊を位置づけています。
私たちは、自衛隊の憲法上の判断では、違憲という判断です。しかし、自衛隊員のみなさんが災害救援で頑張っている、汗を流していることには、私たちももちろん敬意をもって接しています。
米軍と自衛隊が海外で戦争する仕組み――安保法制をなくす
志位 そのうえで、国民が安心と思えるために何をすべきかというご質問にお答えします。
これについて私たちは、いまお話しした、9条の理想にむかう段階ごとに、いろいろな方策をとっていくという全体の方針を明らかにしているのですが、まず緊急にやるべきは二つだと考えています。
一つは、米軍と自衛隊が一緒になって海外での戦争をすることを止めるということです。
2014年から15年に安保法制ができました。これは、それまで「9条のもとでは集団的自衛権は行使できない」というのが政府の憲法解釈だったのですけれども、これを変えて「行使できる」ということにしてしまったのです。集団的自衛権とは、日本に対する攻撃がなくても、アメリカが海外で戦争をはじめたら、自衛隊が一緒に戦争するということです。
そうなるとどうなるか。
たとえば、これまで、米軍は、1960年代から70年代のベトナム戦争のさいに、日本の基地からベトナムに出撃しましたが、自衛隊はいきませんでした。
それから、2000年代に入ってアフガニスタン戦争やイラク戦争のさいにも、米軍は、日本の基地から出撃したわけですけれども、自衛隊は一緒に戦争はしませんでした。
自衛隊の活動は、アフガニスタン戦争のときには洋上での給油、イラク戦争のときには給水活動などにとどまったわけです。「集団的自衛権は行使できない」という憲法解釈があったから、それが抑制的な歯止めになっていたのです。
その歯止めをなくしたらどうなるでしょう。
アメリカが今後、ベトナム戦争やイラク戦争のような海外での戦争を始めたさいに、自衛隊が一緒になって戦争をすることになりますね。実は、ここにこそ、日本の平和の一番の現実の危険があると、私たちは考えています。
ですから野党は、「安保法制はなくそう」、「集団的自衛権は行使できない」という元の解釈に戻そうと主張しています。
ASEANのような平和の地域協力の枠組みを、北東アジアに広げよう
志位 もう一つは、どうやって日本の周辺の地域の平和をつくっていくのかという積極的な方策です。
私たちは、あらゆる紛争問題を話し合いで解決する平和の地域協力の枠組みを、北東アジアにつくるということを提案しています。
その大きなヒントになるのは、東南アジア――ASEAN(東南アジア諸国連合)です。
私は、ASEANの国ぐにに何度も行きまして、すごいことが起こっていると目を開かされました。ASEANでは、東南アジア友好協力条約(TAC)といいますが、あらゆる紛争問題を平和的な話し合いで解決する、絶対に武力行使はしないという域内での平和のルールが決まっていて、それをしっかりと実践しているのです。
ASEANに加入している国ぐには10カ国で、もちろん、この地域でもいろいろなもめごとは残されていますが、もめごとがあっても戦争にはなりません。この地域ではもう戦争は考えられません。
私は、インドネシアのジャカルタにあるASEANの事務局を訪問し、お話を聞いて、たいへん驚いたのは、ASEANでは域内の国ぐにの会議を、なんと年間1000回もやっているというのです。年間1000回といったら、毎日3、4回もやっているということになりますね。年がら年中会議をやっている。それだけいろいろなレベルで会議をやっていますと、お互いの信頼ができます。だから、もめごとがおこっても戦争にはならない。これを本当にしっかりと実践しているのがASEANです。
私たちは、ASEANでやっているような平和の地域協力の枠組みを、北東アジアにも広げようということを提案しているんです。
私たちは、これを「北東アジア平和協力構想」といっています。北東アジアの範囲は、日本、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、アメリカ、モンゴルなど7カ国くらいでしょうか。
そのくらいの国ぐにで、東南アジアで結んでいるTACのような条約を結ぶ。北東アジア版のTACを結んで、あらゆる紛争問題を平和的な話し合いで解決していこうということです。
もちろん、北東アジアには、北朝鮮の問題、中国の問題、米軍の駐留など、いろいろな難しい問題があります。しかし、だからこそ、あらゆる問題を話し合いで解決していくというASEAN流を北東アジアに広げていこうと提案をしているわけです。
中国とどう向き合うか――「国際法を守れ」という外交の力が大切
三浦氏は、志位氏が語った「北東アジア平和協力構想」について、「たいへんチャレンジング(挑戦的)ですね」と感想をのべるとともに、中国の拡張主義や国内でのさまざまな人権弾圧にふれ、北東アジアの平和に「立ちはだかってくるのが中国の存在ではないか」と提起しました。中国に対してどう向き合うか―志位氏は次のように話をすすめました。
志位 まず中国の現状についてですが、とくにこの10年来、非常に大きな変質が顕著になってきたと考えています。二つの問題が起こってきました。
一つは、いま言われた、力ずくで現状を変えていこうという動きです。私たちは覇権主義と呼んでいますが、これが南シナ海、東シナ海、両方で顕著になっています。私たちは、絶対にこれに反対です。
もう一つは、香港、ウイグルなどでの重大な人権侵害です。これが非常に深刻な事態になっています。これはもう内政問題とは言えません。重大な国際問題になっています。
覇権主義と人権抑圧。こういう行動は「社会主義」とは無縁です。私たちは、こうした行動を認めませんし、こういう行動は「共産党」の名にも価しないということもはっきり言っています。この前の大会では、党の綱領もそういう方向で改定しました。
中国に対してそういう厳しい批判をやっています。
それでは、どうやって向き合っていくのかということですが、私は、いま一番大事なのは、まず中国に対して面と向かって「国際法を守りなさい」ということにあると強調したいのです。そうした発信を国際社会できちんとおこなうことです。
私は、いまお話ししたような批判を、駐日中国大使に1時間半ほどかけて詳しく話し、本国に伝えることを求めました。
中国共産党というのは、たいへんに大きな党ですが、正論を言われるのが嫌なんです。私たちの党の大会の決議案に、いまお話ししたような批判を書いたところ、中国大使がやってきて、私に「批判の部分を削ってくれませんか」というわけです。私は、「それはできません」と、中国の行動のどこが間違っているかを事実と道理に立って話したのですが、こうした正論がとても嫌なんです。
ところが、正論で、中国にきちんとものをいう外交が、実は日本政府は弱いのです。正面きって、どこが問題なのか、国際法にてらして何が問題なのかを言わないといけない。
たとえば、中国政府は、今度、海警法というのをつくりましたが、これは自分で「管轄海域」と決めたところでは武器の使用までできるとした国際法違反の法律です。私たちは、これは法律そのものが国際法違反だから撤回すべきだという声明をだしました。
こういうふうに正面から、「中国は国際法を守れ」という外交の力で、国際社会が協力して、無法なことをやめさせていくということが一番大事なことです。
さきほど、東南アジアの話をしましたが、東南アジアの場合も、南シナ海で中国が覇権主義の行動をやっています。それにどう対応するのかという難しい問題があるのです。しかし、「南シナ海行動宣言」というのをASEANと中国の間で結び、紛争を平和的に解決する、力ずくで現状を変えることはしないという約束を交わし、この「宣言」を守らせるとりくみをASEANはやっています。
この問題をめぐっては、ASEANのなかにも、難しい団結上の問題もあるのですが、粘り強くまとまりをつくって地域の平和を守るとりくみを続けています。一方で、アメリカの介入に対しても、自主的対応の努力をしています。大国に思いのままに介入はさせないというASEAN流の自主独立の外交を、対アメリカでも、対中国でも、ちゃんとやっているんです。
日本もそういう外交が大切ではないでしょうか。
そういう外交の努力をやらないで、中国が軍事で構えてきたから日本も軍事で構えましょうということになってしまうと、これは果てしのない軍拡競争になり、一触即発で戦争になってしまう危険もあります。そういう方向に行くのではなくて、あくまでも外交で正論を唱え、粘り強く平和の秩序をつくっていく努力が一番大事だと考えています。(つづく)
「N高政治部」 志位委員長の特別講義(3)
新型コロナ 給付金は有効か 事業が続けられる補償を
Q 今、新型コロナの影響で失業者が増加しています。国は給付金等の手当を出していますが、失業者や会社の倒産を防ぐ手段として有効な手だてだと思いますか。
「自粛と一体に補償を」――営業と暮らしを支える給付金を
志位 給付金が有効かというご質問ですが、私たちは、たいへんに不十分だと考え、拡充を強く求めています。
いま、政府は、飲食店に営業時間短縮要請をしています。それに対する協力金は、一律1日最大6万円です。これでやっていけるお店もあります。しかしちょっと規模の大きいお店は、家賃などの固定費も賄えないという苦しい状態になっています。
私たちは、給付金は一律ではなくて、事業規模に応じたものにして、事業が続けられるだけのものを支給すべきだと求めています。現状では、とてもじゃないけどやっていけない、行政の自粛要請に従ったらつぶれてしまうというお店がたくさんあります。ヨーロッパでやっているように事業規模に応じた協力金にすべきだというのが一つです。
それから、給付金の問題で、たいへんに大きいのは、中小企業の経営をなんとか支えてきた「二つの命綱」の問題です。持続化給付金と家賃支援給付金です。これを家賃など固定費の足しにして何とか経営をつないできていたのです。持続化給付金は、これまでに5兆円くらい支給されて、いちばん役に立つ制度でした。これらの給付金は、国民の願いにこたえて野党が頑張って要求して、つくらせた制度なのです。
ところが、政府は、これを1回きりでやめてしまうという方針です。今年の分は出しませんよということになると、1回目はもう使ってしまっていて、足らなくなっているときに、とても事業を続けられない。緊急事態宣言は出しながら、「命綱」の給付金は切るというのは、あまりにもひどいではないか。給付金の第2弾を出せというのが野党の要求です。
それからもう一つ、給付金で大事な問題があります。生活困窮者の方々をどう支援していくのかという問題です。
もちろん生活保護は、憲法25条で保障された「生存権」という国民の権利にもとづくものですから、親族に対して扶養の可能性を問い合わせる「扶養照会」などをなくして、みんなが安心して使える制度にしていくことは大事なことです。
それと同時に、私たちが提案しているのは、生活に困窮した方々に対して、新たな給付金制度を創設するということです。
どういう制度かといいますと、いま、政府は「緊急小口資金貸付があるから使ってください」というのですが、これは基本は返済しないといけない。返済しないといけないとなると、借りるのをためらってしまう方も少なくありません。
私たちの提案は、生活に困窮している方には、まず現金をお渡しし、後で収入が減っていることの証明があれば、それを返済不要の給付にかえる。そういう形にして使いやすい制度をつくるということです。困窮している方々に支援の手をとどけるためには、そういう新しい給付金制度がどうしても必要です。ぜひ実現したいと考えています。
さきほどもお話ししたような、シフトが切られてしまった方とか、非正規で雇い止めにされてしまった方などで、本当に住む場所がなくなるという事態が、つぎつぎに生まれているもとで、困っている方への新しい給付金制度が必要です。
「自粛と一体に補償をやる」という強いメッセージを政府は出し、しっかり実行することが、いま本当に必要なのです。
フリーランス――あらゆる手だてつくして支援が届くように
志位氏の発言をうけ三浦氏が、支援を受けられないフリーランスの実態を紹介。そうしたところに対する手当も頑張ってほしいと求めました。三浦氏は志位氏に、緊急事態宣言下で「公共の福祉」を理由に私権を制限することについてどう考えるかと聞きました。
志位 まずフリーランスのお話をされました。
フリーランスのうち、多くの場合は、実際は労働者として働いているのに、独立した自営業者として扱われるという働き方をさせられています。つまり実態は労働者なのに、労働者の権利がまったく保障されていないのです。そういう状況のもとで、こういう方々をどうやって支援していくかは大きな問題です。
持続化給付金など自営業者に対する給付金の対象にはなりうるわけですから、この第2弾を実現し、それを支援にあてていく。さらに、労働者の実態で働いている人には、労働者としてのさまざまな支援措置の対象にしていく。文化・芸術分野のフリーランスの方々には、独自の支援を行っていく。あらゆる手だてをつくして、支援が届くようにしていきたいと考えています。
フリーランスについて労働者としての権利を確立することが大切です。
「公共の福祉」――一人ひとりの人権を守るために互いに調整すること
志位 三浦さんがおっしゃった「公共の福祉」に関する論点は、とても大事な論点です。
憲法には「公共の福祉」という言葉が何度か登場します。憲法13条には、幸福追求の権利は「公共の福祉」に反しない限り、最大の尊重がされるとあります。憲法29条には、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」とあります。
憲法で言われている「公共の福祉」というのは何か。これは、人権と人権が衝突した場合に、相手の人権を尊重する、そのかぎりで自分の人権は一定の制約を受けるということです。それは、あくまで一人ひとりの権利を守るために人権と人権の衝突をお互いに調整するということなのです。それは、一人ひとりの人権を守ることとは別に、「公益」や「国益」のために人権を犠牲にするという話ではまったくありません。
たとえば自粛の要請などを行うことも、それはあくまでも一人ひとりの権利を守るためのものでなくてはなりません。新型コロナ・パンデミックから、一人ひとりの権利、命、健康を守るために、一定の自粛の要請を行い、それに従うことは、他の人の権利を尊重する、そのために自分の権利が一定の制約を受けるということです。それはあくまでも、国民の一人ひとりの権利の全体を守るための措置という基本をしっかりすえて行わなければなりません。
自粛の要請と一体に十分な補償をやらないと、一人ひとりの権利を守れないことになりますね。ましてや十分な補償もせずに罰則を科すというのは、これは私たちは強く反対していますけれども、「公益」「国益」に無理やり従えということで、二重三重に間違ったやり方です。
憲法の考え方は、「すべて国民は、個人として尊重される」(13条)――個人の尊厳の尊重こそが、基本中の基本であって、「公共の福祉」というのは一人ひとりの人権を守るために、お互いの人権を調整することなのだということを、うんと強調したいですね。 (つづく)
「N高政治部」 志位委員長の特別講義(4)
日本共産党がめざす社会像 「国民が主人公」といえる日本つくる
オンラインで参加した25人の生徒が5グループに分かれ、志位委員長に質問を投げかけました。
生徒 チームAの質問です。共産党は科学的社会主義をめざしておられますが、実現の難しさを踏まえ、どのように実現しようとしているのか。また、科学的社会主義を実現して何を解決し、また何を助けたいのかお聞かせください。
階段を上るように一歩一歩進む、選挙で示される国民多数の意思で進む
志位 私たちは、社会主義・共産主義をめざしています。ただ、一足飛びにそれを実現するという立場ではありません。
私たちは、人間の社会は――日本社会も含めて、一段一段、階段を上るように、直面するいろいろな課題を解決しながら、一歩一歩、進んでいくという立場に立っています。
そして、この階段を上るさいに、政治のリーダーが勝手にみんなをひっぱっていくというのでなくて、主権者である国民の多数が選挙で「上ろう」という審判を下して、多数がしっかりと合意をして、次の階段を上ろうという立場に立っています。
まず資本主義の枠内で、「国民が主人公」の国をつくる民主主義革命を
志位 そう考えますと、私たちは、いまの日本ですぐに社会主義にすすむというせっかちな方針ではありません。
それでは何を変えるのかといいますと、まずは資本主義の枠内で、本当に「国民が主人公」といえる国をつくるための民主主義革命をやろうというのが私たちのプログラムなのです。
もちろん革命と言っても恐ろしい話ではありません。民主的な選挙での審判をつうじて行うというのが、私たちの大方針です。
革命というのは、世の中の仕組みをガラッと変えようということですが、私たちは、日本の社会の二つのゆがみを正していこうということを、党の綱領に掲げています。
「アメリカいいなり」のゆがみを正す――対等・平等・友好の日米新時代を
志位 一つは、あまりにもひどい「アメリカいいなり」の政治のゆがみを正すということです。
核兵器禁止条約が、2017年7月に国連会議で採択され、今年1月に発効しました。私も17年の国連会議に参加しましたが、大きな喜びです。この条約によって人類の歴史上初めて核兵器が違法になりました。画期的なことです。ところが日本政府は、アメリカとの関係が足かせになって、この条約に背を向けています。被爆国の政府として、とても恥ずかしいことではないでしょうか。被爆者からも強い批判がありますね。これでいいのかという問題を考える必要があると思います。
それから沖縄では、辺野古で米軍新基地を無理やりつくっています。沖縄県民が、何度も何度も選挙で「ノー」の審判を下しているのにやめようとしない。民主主義の国でこんなことが許されるでしょうか。
こうしてアメリカとの関係で、対等・平等とはほど遠い、いろいろな問題があります。
私たちは、そういう目の前の問題を一つ一つ解決しながら、こうした問題の根っこにある日米安保条約を国民多数の合意で廃棄して、安保条約の代わりに日米友好条約を結び、対等・平等・友好の日米新時代をつくることを大きな目標にしています。
世界を見ますと、軍事同盟というのは、大きくいえば解体と衰退の方向に向かっています。いまの世界で、軍事同盟が機能しているのは、日米軍事同盟、米韓軍事同盟、米・オーストラリアの軍事同盟、そしてNATO(北大西洋条約機構)ぐらいです。それ以外の、かつてあったたくさんの軍事同盟は、みんな解体・機能停止になっているのです。こういう流れにてらしても脱軍事同盟という方向にふみだすことが、当たり前ではないでしょうか。
「財界中心」のゆがみを正す――人間らしい労働のルールを
志位 もう一つは、財界・大企業の横暴勝手がひどすぎる、「財界中心」の政治のゆがみを正すということです。
日本の社会は、国民の暮らしや権利を守るルールが、ヨーロッパなどに比べてもとても弱いという問題があります。弱いだけでなく、この間、重大な後退もあります。
たとえば、人間らしい労働のルールがとても弱く、後退させられてきた。非正規雇用労働者の比率は、最近の統計では全体の40%を超えました。1990年代なかごろから、財界が旗をふって、正社員を、パート、アルバイト、派遣に置き換える流れをおしつけてきました。その結果、「使い捨て」の労働が社会にあふれています。さきほどお話ししたフリーランスといった、労働者なのにその権利がまったく保障されていない働かせ方も広がっています。こんなことを続けておいていいのかということは、日本社会の大問題ではないでしょうか。
それから長時間労働が日本はひどい。ドイツなどに比べて年間500時間も多く働かされています。「過労死」が後を絶ちません。「サービス残業」と呼ばれるただ働きも横行しています。世界のなかでも、「過労死」や「サービス残業」が社会問題になるというのは、日本だけの異常な現象なのです。
こういう財界・大企業のもうけ放題をただして、人間らしい労働のルールをつくり、8時間働けば誰でもふつうに暮らせる社会をつくっていこう。これが私たちの提案です。社会保障、中小企業、税財政、環境、ジェンダー、あらゆる分野で、「財界中心」のゆがみを正す改革にとりくみたい。
憲法には「国民主権」と書いてありますね。ところが、実態は「米国主権」「財界主権」になっている。この二つのゆがみを正すことで、憲法に書いてある通りの本当に「国民が主人公」といえる民主主義の日本をつくろうというのが、直面する私たちの大目標です。
次の階段――国民多数の合意で社会主義への階段を上る
志位 この民主主義革命は、文字通りの革命的な大改革なんですけれども、それをやったうえでも資本主義という制度は続きます。
資本主義が続く限り、貧富の格差は、一定の是正がされたとしても、なくなることはないでしょう。失業者もなくなることはないでしょう。恐慌や不況もなくなることはないでしょう。環境破壊の根も絶てないでしょう。こうしたいろいろな問題は、その解決が、資本主義の次の社会に課題として残されます。
そこはやはり、次の階段を上る必要が出てくるでしょう。次の階段として、これも国民の多数の合意で、資本主義を乗り越えて、社会主義への階段を上るということを、私たちは展望しています。
共産主義の革命を実現したら、人権弾圧が行われるか
志位氏の発言をうけてAグループの生徒からさらに質問が出され、これに志位氏が答えました。
生徒 さきほど、選挙で革命をしていくという発言がありましたが、ドイツのナチ党は過半数を勝利した後にいろいろ人権弾圧を行いました。日本が共産主義の国を選挙の革命で実現した場合、思想弾圧とか人権弾圧が行われるのでしょうか。
志位 そんなことは絶対にしません。私たちは党の綱領で、社会発展のあらゆる段階で、民主的な選挙で多数を得て、一歩一歩進んでいくと明記しています。
そして、私たちが多数を得て政権についたとしても、自由や民主主義の制度を守り、充実し、発展させるということは、党の綱領で国民にかたく約束していることです。ですから、そういうことは絶対にやらないということは、ここでもはっきりお約束したいと思います。
ではなぜつぶれてしまったソ連や今の中国で、人権抑圧などが起こったのかということですが、そこには、まず歴史的な条件の大きな違いがあることを見てほしいと思います。ロシア革命も中国革命も、自由や民主主義の制度が存在しないもとで、武力革命で始まりました。問題は、そのあと、自由や民主主義の制度をつくるという努力をやらなかった。逆に指導者が「社会主義」とは無縁の間違った政策をすすめ、ひどい人権弾圧をやってきた。こういう歴史的事情があるのです。
日本では、戦後75年にわたって、憲法にもとづいてつくられた自由と民主主義の制度を多くの国民のたたかいで守ってきたという歴史的伝統があります。これはナチ党が政権を握った第1次世界大戦後のドイツとも違う。
私たちが参画する政権は、それを引き継いで先にすすむわけですから、その政権が弾圧を行うなどということは絶対にありえません。これは私たちの党の綱領で約束しているだけでなく、日本の国民が築いてきた伝統にてらしても、歴史の大逆転はおこりえない。また絶対におこさない。そこはどうか、心配しないでください。(つづく)
「N高政治部」 志位委員長の特別講義(5)
日本の危険性、可能性
共闘、連帯にこそ希望がある
続いてBグループの生徒からの質問に、志位委員長が答えました。
生徒 Bグループからは次の質問をさせていただきます。日本で一番長い政党である共産党から見て、今の日本はどのような可能性、または危険性を持っていると思いますか。私が生きているよりも長い間、委員長を務めていらっしゃいますが、その経験を踏まえて今後10年の日本はどうなると思いますか。
「危険性」――安保法制強行と立憲主義の破壊は、独裁政治に道を開く
志位 「危険性」という点で、私が一番危ないと思っているのは、さきほどお話しした安保法制の動きです。どういうことかというと、立憲主義という国の土台が壊されてきているということです。
立憲主義というのは、個人の人権を守るために、「憲法によって権力をしばっていく」という考え方です。どんな権力も、勝手なふるまいをしてはならない、憲法は守らなければならないという考え方です。その立憲主義が安保法制を大きな契機にして壊されてきています。
「憲法9条のもとでは集団的自衛権は行使できない」というのは、戦後半世紀以上の政府の一貫した憲法解釈でした。この憲法解釈は、時々の総理大臣によって国会の場で何度も答弁で示されてきた憲法解釈でした。ところが、安倍政権は、内閣法制局長官の首をかえて、一夜にしてこの解釈を変え、2014年7月の「閣議決定」で「集団的自衛権は合憲」としてしまいました。翌年9月には、この「閣議決定」をもとに、安保法制が強行されました。
憲法で「国権の最高機関」(41条)と定められている国会の場で、歴代政府が半世紀以上も繰り返し述べてきた憲法解釈というのは、たいへんに重いものです。それを一内閣が一片の「閣議決定」によってぼろくずのように捨てることが許されるならば、「憲法によって権力をしばっていく」――立憲主義は、大本から崩されてしまいます。
この出来事を一つの大きなきっかけにして、「権力は憲法を守る」というごく当たり前の政治ルールが壊され、いま日本の政治はたいへん危ういことになっています。
最近の出来事でも、菅首相によって、日本学術会議への任命拒否という問題が起こりました。憲法23条が保障した「学問の自由」に反するという強い批判が広がっていますが、権力が憲法を破っても平気な状況が日常化してしまったら、次に待っているのは専制政治、独裁政治への転落です。日本の前途にとってとても危ないことです。
ですから、いま野党は、一致して、集団的自衛権行使容認の「閣議決定」を撤回し、安保法制を廃止して、立憲主義・民主主義・平和主義をとりもどそうと訴えています。
「危険性」という点で、私が一番感じているのは、この問題です。
「可能性」――社会的連帯で新しい未来をつくるさまざまな運動が
志位 それから「可能性」という点では、そういう危険な流れのもとで、社会的連帯のいろいろな取り組みが広がってきたということです。
いまお話しした安保法制の強行のときにも、学生、労働者、女性、学者など、何万人という多くの市民のみなさんが、毎日のように国会を取り囲んで、「安保法制(戦争法)反対」「憲法守れ」というコールをみんなでやった。そのなかから「野党は共闘」というコールが出てきました。
私たち日本共産党は、そういう市民のみなさんの声に背中を押されて、「市民と野党の共闘で日本の政治を変える」という野党共闘の路線に変えました。私たちは、この5年半、野党共闘に取り組み、3回の国政選挙を共闘でたたかってきましたが、私の実感としても、みんなで力を合わせて新しい政治をつくるというこの道にこそ、希望があると感じています。
それから切実な願いを掲げてのいろいろな市民の運動が起こっています。性暴力の根絶を求めるフラワーデモが、全国各地で毎月11日に行われています。私も何度か参加しましたが、本当につらい経験を話すなかで、いまの社会を変えていかなくちゃという訴えを、多くの方々がされていることに、強く心を動かされました。
それから、コロナで学生がたいへんな困窮に追い込まれているもとで、全国で「食料支援プロジェクト」というのが行われて、ボランティアのみなさんが学生への食料支援に取り組み、支援された学生がいっしょに参加する運動になっています。
気候危機の問題でも、「Fridays For Future」(未来のための金曜日)という運動――スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの運動に連帯する運動が、若い人たちを中心に日本でも起こってきています。
ですから私は、一方で「危険性」はあるけれども、もう一方には社会的連帯で新しい未来をつくっていこうという「可能性」も広がっている、ぜひ力をあわせて未来ある流れを強めていきたいなと思っています。
「今後10年」――気候、格差、人類にとって正念場の10年に
志位 いまのご質問は最後のところで、「今後10年の日本はどうなると思いますか」とありますね。私は、ここは、「どうなるか」ではなくて、「どうすべきか」が大事だと思います。
いまお話しした社会的連帯で新しい未来をつくるいろいろな動きがおこっていますから、この動きを本当に日本全体の流れにして、新しい政治をつくる10年にしたいと考えています。これが一つです。
それから世界は、さきほど気候危機の話をしましたが、「2050年までに温室効果ガスをゼロ」にするためには、2030年までが正念場なんです。つまり、温室効果ガスを2030年までにまず半分にしなければならない。
半分にしようと思ったら、再生エネルギーへの大転換――エネルギー分野でのシステム移行はもちろん必要ですが、それだけじゃなくて、産業分野でのシステム移行、都市・インフラ分野でのシステム移行、土地利用分野でのシステム移行など、社会の全ての分野にわたる全面的なシステムチェンジを、この10年間に本格的に開始しなければなりません。
私は、世界でも日本でも、気候危機の打開と格差拡大の是正、この二大テーマがまさに正念場になってくると思います。人類にとって本当に正念場の10年になると考えています。
巨額の債務残高――「取るべきところ」から税金をきちんととる
生徒から今後10年の日本社会に関わって次の質問が出され、志位氏がこれに答えました。
生徒 最近、債務残高が他の国と比べてもGDP比でも2倍以上になっているなどと騒がれていますが、志位さんはどう考えていますか。かりに与党となった場合に債務残高を減らしていく考えなどはありますか。
志位 今はコロナのもとで、緊急の対策を行う場合に国債に頼るのはやむをえないことですが、国と地方の債務残高がGDP比で2倍以上でどんどん増えるという現状は、そのままにしてはおけない。債務残高の増大をどこかでピークアウトさせ、減らしていく方向に転じることを、責任もって追求しなくてはいけないというのが、私たちの立場です。
いろいろな方法がありますが、やはり基本は、国民の暮らしに役立たない無駄遣いをなくすとともに、富裕層や大企業にちゃんと税金を払ってもらうことにあります。
大企業が払っている法人税の実質負担率は、いろいろな優遇税制のおかげで10%ちょっとしかありません。一方、中小企業が払っている法人税の実質負担率は18~19%です。これは、おかしいでしょ。研究開発減税など大企業への優遇税制制度をただして、まずはせめて中小企業なみにきちんと税金を払ってもらうことが必要です。
優遇税制をなくすだけでなくて、法人税率そのものの引き上げも必要です。最近、面白い動きだなと思ったのは、バイデン米大統領が選挙戦の公約で、トランプ前大統領が35%から21%まで下げた法人税率を28%に戻すと主張していることです。これは、日本共産党の主張と同じだなと思いました。日本共産党は、選挙政策で、安倍政権のもとで28%から23%まで引き下げられた法人税率を28%に戻すことを提案してきましたから(中小企業は上げません)。日本共産党が先に言っていたのですが(笑い)、偶然にも一致してしまいました。
大企業への法人税率を国際協調――日米協調で元に戻していくということも追求していきたい。「取るべきところ」から税金を取っていかないといけないと思います。
さらに、「取るべきところ」という点では、こういう問題もあります。GAFA――グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルに代表される巨大IT企業が、いま巨額の利益をあげているわけですが、その巨額の利益を、税率の低い国やタックスヘイブン(租税回避地)に留保して、利益をあげている消費者がいる国には十分な税負担をしていない、という問題があります。
OECD(経済協力開発機構)の試算では、世界の法人税収の4~10%に相当する10兆円~24兆円もの税負担が回避されているとのことです。巨大IT企業というのは、世界でビジネスを行うさいに、利益をあげている消費者がいる国に支店をつくったり、工場を建てたりする必要がありません。そのために税負担を回避することが可能になっているのです。
こういうところにも国際的な協調でメスを入れて、税金をきちんと負担してもらうことも大切になっています。
そういう取り組みの全体を通じて、暮らしを良くする財源をつくりだしながら、長期債務を減らしていく方向を追求していなければいけないと考えています。(つづく)
「N高政治部」 志位委員長の特別講義(6)
大企業への民主的規制 力にふさわしい社会的責任を
続いて、Cグループの生徒の質問に志位委員長が答えました。
生徒 「赤旗」日曜版の原油価格高騰特集の記事の中で、CO2排出量に応じた環境税についてのことや、「日本共産党綱領」のなかで、大企業の利潤第一主義の経済活動に民主的な規制を加えることをめざしているとの記載がありました。大企業の利潤第一主義の経済活動に民主的な規制をというところに関して、あらためて環境税以外で共産党として考えている政策は何かあるのかお伺いしたいです。よろしくお願いいたします。
大企業への「敵視」でなく、社会的責任を果たしてもらうこと
志位 よく日本共産党の政策を調べていただいてうれしいです。
大企業の民主的規制というのは、私たちが経済政策の根幹にすえている方針ですが、これは大企業を「敵視」したり、ましてや大企業を「つぶす」という話ではまったくありません。
大企業というのは、大きな社会的存在で、大きな力を持っているわけですから、その社会的存在・力にふさわしい社会的責任を果たしてもらう、そのために法律などのルールをつくっていく、これが私たちの綱領でのべている民主的規制の方針です。
どういう社会的責任かということを考えた場合、いくつかの柱があります。
まず、いいたいのは、人間らしい雇用の責任です。さきほどお話ししたような、パート・アルバイト・派遣など非正規で労働者を「使い捨て」にするというやり方をあらためて、正社員が中心の雇用にしていく。それから「過労死」を生むような長時間労働をなくしていく。「サービス残業」=ただ働きをなくしていく。誰でも8時間働けばふつうに暮らせる社会にしていく。そうした人間らしい雇用の責任を果たしてもらう。
二つ目に、税と社会保険料負担の責任です。これもさきほどお話ししたように、中小企業に比べても大企業の方が税負担が少ないという現状があります。いろいろな税逃れもやられています。もうけにふさわしい税金をきちんと払ってもらう。
三つ目は、環境に対する責任です。たとえば今、CO2を減らさなければならない時に、大型の石炭火力発電所をなんと15基も新しく建設中、あるいは計画中です。こんなことやったら、2050年でもCO2をどんどん出し続けることになります。もうけ優先で石炭火力をつくっていくのではなく、建設中・計画中のものはやめる、既存のものも計画的に撤退していくことが必要です。これは第一歩にすぎませんが、環境への責任をさまざまな面で果たしてもらうことが必要です。
ジェンダー平等への責任――「間接差別」をなくす
志位 それからもう一つ言いたいのは、ジェンダー平等への責任です。ジェンダー平等社会をつくるさいに、「雇用におけるジェンダー平等」の実現は、とても重要な柱です。
日本では、正社員でも女性の平均賃金は男性の平均賃金の75%です。非正規社員の場合は女性は男性の半分です。なぜそうなっているかというと、企業のなかで、一見中立のように見えるけれども女性に不利に働く「間接差別」が横行しているからなのです。
たとえば、就職すると「コース別人事」になっていて、管理職まで行けるコースと一般職にとどまるコースとに最初から分かれているわけです。女性の場合、多くは管理職まで行けるコースには乗れません。一応、男女平等、ジェンダー平等が建前になっているのですが、実際はそうなっていません。差別が横行している。大企業は、真剣にその是正に取り組み、ジェンダー平等への責任を果たしていく必要があります。
日本社会、日本経済の健全な発展にとって避けることができない
志位 さらに、中小企業への責任、地域社会への責任など、大企業には多面的な社会的責任があります。それをきちんと果たしてもらうために法律などのルールをつくっていこうというのが、私たちが綱領で掲げている大企業の民主的規制の方針です。
大企業に対する民主的規制は、働く人、国民の願いであるだけでなく、日本社会、日本経済の全体の健全な発展にとっても、避けることができない合理的な方針だと、私たちは考えています。(つづく)
「N高政治部」 志位委員長の特別講義(7)
道州制・地方行革 コロナ危機ふまえ見直しを
続いてDグループの生徒からの質問に志位委員長が答えました。
生徒 共産党は道州制を「国の姿を壊す仕掛けづくり」だとして反対していますが、そこには道州制をはじめとする地方行政改革による影響力の乱れ(地方の議員定数削減など)を危惧しているなどの政治的理由などがあるのではないでしょうか。
「道州制」――自治体が遠くなり、福祉を良くする仕事ができなくなる
志位 「道州制」とは何かというと、いまある47の都道府県をなくして、10程度の「道州」という「広域自治体」をつくるというものです。そして市町村を大合併させて300程度の「基礎自治体」に再編するというものです。
そんなことやったらどうなるか。自治体がいよいよ住民から遠くなってしまいます。地方自治法にもあるように、自治体の一番の仕事は、「住民の福祉の増進」にあるのですが、「道州制」ではその仕事ができなくなってしまうことになると思います。
「平成の大合併」――地方の衰退、過疎化がすすむ
志位 「地方行革」についてのご質問ですが、この動きはいま始まったことではなくて、1980年代からやられてきたことです。それによって何が起こったかということをよく見ていただきたいのです。四つほど大事な数字を紹介します。
一つは、市町村の数です。これは「平成の大合併」で3200から1700に減らされました。ほぼ半分になってしまいました。その結果、中心自治体にいろいろな機能が集中し、周辺の旧自治体地域では衰退が進みました。その地域から町役場、村役場がなくなり、住民サービスと地域振興の拠点がなくなり、過疎化がいっそう進みました。
たとえば、昨年、九州で豪雨災害があり、私も現地にうかがったのですが、合併によって、以前は災害対策本部が置かれていた役場がなくなり、災害時に住民の命を救うという点でも困難が生じていました。
「平成の大合併」の押し付けによって、住民サービスが大幅に後退し、災害にも弱い体制になってしまったことは、否定できないと思うのです。地方議員数も「大合併」に伴って減少しましたが、住民の願いを議会にとどけ、行政をチェックするという点で、地方議員の減少は、地方自治の力を弱めるものとなりました。
保健所、国立・公立・公的病院の減少――コロナで間違いが明らかに
志位 二つ目は、保健所の数です。保健所の数は、1992年には852カ所あったものが、2020年には469カ所へと、半分になってしまいました。ほとんどの政令指定都市には、保健所は一つしかありません。横浜市、川崎市、名古屋市、大阪市などの巨大都市に、一つしか保健所がありません。そのために、コロナの対応でも、保健所が疲弊してたいへんな状況になっています。コロナを体験して、保健所を減らしたのは大失敗だと、みんなが思っているのではないでしょうか。
三つ目は、国立・公立・公的病院の数です。これが1822から1524に、300も減らされました。そのうえ政府は「地域医療構想」といって、440もの公立・公的病院の統廃合をやろうとしています。
しかし、このコロナ危機のもとで、コロナ患者さんを一番受け入れているのは国立・公立・公的病院ではありませんか。もちろん民間病院もコロナ患者さんを受け入れて頑張っているところがたくさんありますが、国立・公立・公的病院が中心になって受け入れているのが現状です。そういう危機のさいに頼りになる医療機関をこんなに削ってきたことは、これも間違いだったということが、コロナを体験して、はっきりしたのではないでしょうか。
公務員の削減――国際的にも日本の公務員数は少ない
志位 最後にもう一つ、都道府県と市町村の公務員の数です。320万人から270万人へと50万人も減りました。コロナのもとで公務員のみなさんは、ほんとうに大奮闘しています。ところがマンパワーが足らない。役所もたいへん、保健所もたいへんというのが現状です。余裕がない。疲弊しています。公務員をどんどん減らしていく、削減路線を続けていていいのかということが問われていると思います。
国際的に見てみますと、人口比での日本の公務員数は、フランスやイギリスの半分です。アメリカやドイツの6割です。決して日本の公務員数は多いわけではなく、むしろ少ないのです。それをどんどん削っていくやり方がいいのか。これも真剣に考えなければなりません。
「地方行革」のツケがコロナ危機でまわってきた――切り替えが必要
志位 この間、「地方行革」の名で、市町村を無理やり合併させ、保健所を減らし、国立・公立・公的病院を減らし、公務員を減らしてきた。そのツケが、コロナ危機でまわってきたのではないでしょうか。こういうやり方はもう切り替えることが必要だということが、コロナのもとではっきりしたのではないかと、私は思います。
これ以上の市町村合併の押し付けをやめ、住民福祉向上に力をそそぐ
続けて、三浦氏と生徒から基礎自治体についての質問が出され、志位委員長が答えました。
三浦 住民に対するきめ細かなサービスを行うためには、基礎自治体の規模はもっと小さくした方がいいのでしょうか。規模はそのままで効率化した方がいいのでしょうか。
志位 自治体の規模を、前のような規模へと小さくするというのは、なかなか現状では難しい面があると思います。
これ以上の市町村合併の押し付けはやめ、住民福祉、住民サービスをいかに良くしていくかに力をそそぐことが大切だと思います。
若い方への支援も、自治体によっては、さまざまな形でやられています。たとえば、農業後継者などへの支援を独自にやっている自治体とか、地域おこしへの支援を行っている自治体など、地域の実情にそくした支援をやっている自治体がたくさんあります。地元に密着した自治体の機能を強めていくということが大事なのではないでしょうか。
何人規模の自治体がベストか――住民合意で自治体が自主的に
生徒 基礎自治体で住民サービスを向上させるためには何万人規模の人口がベストだとお考えでしょうか。
志位 何万人規模がベストと答えるのは、なかなか難しいですね。地方の実情に応じて、住民合意で自治体が自主的に決めていくことが何よりも大切だと思います。
私たちは、もともと「平成の大合併」のときにも、合併に頭から反対したわけではないのです。住民の合意で自主的に合併を選ぶ自治体については、一律に反対という態度をとりませんでした。国が上から合併を押し付けることは良くないといって反対したのです。上からの合併の押し付けを拒否して、住民のなかでの議論をつくして、合併の道を選ばずに、しっかりと地域に根づいた自治体を残したところも多くあります。
いま私たちが強く主張しているのは、「道州制」やこれ以上の市町村合併の押し付けは良くない、いまある自治体の機能をいかに強めていくのか、とくに住民サービスの機能をどうやって強めていくのかというところに心を砕くべきだということです。
これは、全国町村会のみなさんが一致して求めていることでもあります。“これ以上の市町村合併の押し付け反対”、“道州制には断固反対”、これが全国町村会の声です。その声を大事にしていくべきだと考えます。(つづく)
「N高政治部」 志位委員長の特別講義(8)
共産主義、天皇制
「各人の自由な発展が万人の自由な発展の条件」に
続いてEグループの生徒からの質問に志位委員長が答えました。
生徒 まず、日本共産党は、そもそも本当に共産主義をめざしているのでしょうか。共産党が与党になったとして、天皇制を廃止すると聞きました。これは本当でしょうか。日本共産党が現実的にめざしている社会とはどういう社会でしょうか。
天皇の制度――憲法の条項と精神をきちんと守ることが何よりも大切
志位 まず、共産党が与党になったら天皇制を廃止するというのは、これは違います。
私たちが天皇制について――党の綱領では「天皇の制度」といっているのですが――、どう位置付けているのかといいますと、綱領では現行憲法をしっかり守ることが何よりも大事だとしています。
現行憲法には、天皇は「国政に関する権能を有しない」(第4条)ということが書いてあります。つまり、政治に関与してはいけませんよとなっているわけです。
ですから、この制限規定をきちんと守り、天皇の政治利用をはじめ、憲法の条項と精神からの逸脱を是正する、これが何よりも大事だというのが、私たちの立場です。
憲法の条項と精神をきちんと守りながら、天皇の制度とはかなり長期にわたって共存していく。これが私たちの展望なんです。
ですから、かりに私たちが参画する政権ができたとしても、天皇の制度そのものを変えたり、廃止したりなどということは、ありません。この制度は、現行の憲法に定められている制度であり、その憲法をきちんと守るということが、私たちの方針です。
天皇の政治利用は絶対にやらない――「主権回復の日」記念式典について
三浦 では、天皇に関わるところでは、どこが具体的に変わるのでしょうか。いきなり廃止ではないということはわかりました。
志位 そうですね。いまお話しした、天皇の政治利用は絶対にやらないという点では、過去にいろいろな問題があります。たとえば、2013年のことですが、4月28日に「主権回復の日」記念式典というのを、当時の安倍政権が行いました。
私たちは反対しました。この日は、1952年にサンフランシスコ平和条約と日米安保条約が発効した日で、これらの条約で日本がアメリカの支配のもとに組み込まれたという問題があります。そして、この日は、沖縄が平和条約によって日本から切り離され、米国の施政下に置かれた日なのです。ですから、沖縄県民にとっては「屈辱の日」とされている日なのです。沖縄からは、こういう日を「主権回復の日」として祝うことに対して、強い批判と抗議の声があがりました。
そういう政治的評価が大きく分かれる日に、政府として記念式典を行い、天皇・皇后の出席を求めるというやり方は、天皇の政治利用そのものです。そういう逸脱は絶対に繰り返さないということです。
将来の展望――民主共和制の立場に立つが、その存廃は国民の総意で
志位 ずっと将来の展望としては、私たちは党の綱領に、私たちの立場として、「民主共和制の政治体制の実現をはかるべきだとの立場に立つ」と表明しています。同時に、天皇の制度は憲法上の制度ですから、「その存廃――存続するか廃止するか――は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきものである」と書いています。
このように、私たちは、ずっと将来の展望としては、天皇の制度は、世襲にもとづく制度ですから、「人間の平等の原則」と両立しない、だから民主共和制の実現をはかるべきだとの立場に立っています。民主共和制というのは、1776年のアメリカ独立革命で始まり、1789年のフランス革命などをへて、いまでは世界中のほとんどの国で行われている政治体制ですが、そういう体制の実現をはかるべきだとの立場に立っています。ただ、私たちとしてはそういう立場に立つけれども、天皇の制度は憲法で決められた制度ですから、かりに廃止するとなれば憲法改正が必要です。ですから、その「存廃」を決めるのは「国民の総意」だ――主権者である国民の総意にゆだねるということを綱領では明記しています。これはずっと先の話です。
三浦 共産党が政権をとったら、国家元首をどう位置付けますか。元首は総理大臣にしますか。
志位 国家元首についての憲法上の規定はないのですが、やはり内閣総理大臣だと考えます。
天皇は、憲法で「国政に関する権能を有しない」ということになっているわけですから、「外国の大使及び公使を接受する」(第7条9項)ことなどはありますけども、それもあくまで形式的なものであって、元首は内閣総理大臣ということになると考えます。
天皇を元首扱いし、事実上の政治的権能があるかのように扱ってしまうことは、憲法から逸脱することになります。
社会主義・共産主義の最大の特徴――「人間の自由で全面的な発展」
志位氏は続けて、日本共産党がめざす社会像についての質問に答えました。
志位 もう一つの質問、「そもそも本当に共産主義をめざしているのですか」という根本的な質問にお答えします。
私たちは、社会主義・共産主義をめざしています。
それでは、日本共産党がめざす共産主義とは何か。さきほど格差の拡大や環境破壊など資本主義のいろいろな矛盾の話をしました。社会主義・共産主義とは、資本主義を乗り越えたその先の社会のことなのですが、その最大の特徴を一言でいうとどうなるか。
マルクス・エンゲルスという私たちの大先輩が2人で書いた『共産党宣言』という著作があります。そのなかに社会主義・共産主義について、「各人の自由な発展が万人の自由な発展の条件であるような一つの結合社会」という特徴づけがあります。
「各人の自由な発展」=「人間の自由で全面的な発展」。すべての人間が、自らの能力を自由に全面的に発展させることができる社会。これこそが、マルクスとエンゲルスが、若い時期から、晩年にいたるまで、一貫して求め続けた人間解放の中心的な内容でした。
それでは、マルクスが「人間の自由で全面的な発展」の保障をどこに求めたのかといいますと、労働時間の短縮なんです。つまり、労働時間がぐーっと短くなり、たとえば1日3時間、週3日でももう十分やっていけるとなったら、自由時間がうんとできるではないですか。その自由時間を使って、すべての人間が自分の中に潜在的に眠っているいろいろな能力を存分に発展させることができる。(三浦「ピアノを弾くこともできる」)
そうですね。ピアノを弾くこともできるでしょうし、いろいろな学問をやることもできる。あるいは芸術もやることもできる。さまざまな知的な活動、あるいは肉体的な活動、それに自由に全面的にとりくみ、自分の能力をみんなが存分に伸ばすことができる社会になる。
資本主義のもとでは、いろんな能力や才能を持っていても、それを生かすことができなくて、埋もれてしまう人も少なくないですよね。ところが共産主義の社会では、みんなが自分のなかに眠っている能力や才能をのびのびと全面的に伸ばし、全面的に発展できる社会になる。
なぜ労働時間が短くなるか――搾取がなくなり、浪費が一掃される
三浦 機会の平等というふうに聞こえますが、人間には生まれ持っての能力の差など、いろいろな差がありますが、その結果の平等はどうなるのでしょうか。
志位 人間は、一人ひとりが多様な能力や才能をみんな持っている。その多様な能力や才能を、あるがままに尊重することが大切であって、そこに順番をつけるのは、あまり良くないと思います。
さきほど私は、労働時間の短縮と言ったのですが、なぜ社会主義・共産主義になると労働時間が短くなるのか。
一つは、人間による人間の搾取がなくなるということです。資本主義のように、自分は働かないでもうけだけを吸い上げている人がいなくなるわけで、社会のすべての構成員が平等に生産活動にあたることになれば、一人ひとりの労働時間は大幅に短くなります。
二つ目は、資本主義につきものの浪費がなくなるということです。資本主義社会というのは、効率的なように見えてものすごい浪費社会なのです。たとえば、人間を浪費します。いまの日本を見れば一目瞭然ではないですか。人間を、どんどん「使い捨て」にして、「過労死」させているでしょう。マルクスも『資本論』のなかで「人間材料の浪費」「人間、生きた労働の浪費」という厳しい告発の言葉を書きつけています。
また、資本主義は、社会のあり方としても、さまざまな浪費を生みだします。資本主義のもとでは、恐慌・不況が繰り返し起こることを、止めることはできません。2008年のリーマン・ショックの時を見ればわかりますが、恐慌になったら、一方で失業者がいる。他方で工場は止まっている。とんでもない浪費です。
さらに、資本主義は、「大量生産・大量消費・大量廃棄」の社会をつくりだします。絶えず新しい商品が開発され、古い商品は十分に使えるのに捨てられて、不必要に新しい商品を買うことが強制される。
社会のあり方として、ものすごい浪費社会なのです。その浪費を本当に一掃することができたら、今の生産力の水準でも、ものすごく社会全体が豊かになることでしょう。
地球という星は、自然の条件としては有限です。この星で人類が生産力をただ量的な意味で無限に拡大することはできないでしょう。しかし、浪費をなくし、最小の力で、より人間的で合理的な形で、生産力の質を豊かにしながら発展させることはできる。それは労働時間をうんと短縮し、人間に自由に使える時間を保障することになるでしょう。
資本主義のもとで獲得した価値あるものを引き継ぎ、発展させる
志位 もう一つ、強調しておきたいのは、社会主義・共産主義の社会は、資本主義から生まれるわけです。資本主義を乗り越えたその先にあるわけです。資本主義とは別につくられるのではなく、資本主義と地続きでつながっているのです。
私が、みなさんにお伝えしたいし、固くお約束したいのは、日本共産党が、人類が資本主義のもとで獲得した価値あるものをすべて引き継いで発展させるという立場に立っているということです。先日、一部改定した党の綱領にも、より詳しくそのことを書き込みました。
たとえばさきほどお話しした自由と民主主義の制度です。これは資本主義のもとで、人民のたたかいによってつくられた制度です。これらは、すべて次の社会にも引き継ぎ、発展させ、豊かに花開かせるということを、党の綱領に明記しています。
それから人間の豊かな個性です。人類の歴史のなかでも、資本主義のもとで初めて、人格的に独立し、豊かな個性をもった自由な人間が、社会全体の規模で生まれてきます。この時代のもとで初めて、民主主義の感覚、人権の感覚、主権者意識、ジェンダー平等の感覚なども、人々のたたかいのなかでつくられていきます。奴隷制や封建制の時代にはなかったような人間の豊かな個性が生まれてくるのが資本主義の時代なのです。これらの豊かな個性も、次の社会に引き継がれ、搾取がない社会でより豊かに発展することになるでしょう。
資本主義のもとで、みんなの力でつくった価値あるものは、すべて引き継いで発展させる。これは私たちの党の綱領に明記していることで、みなさんにお約束したいことです。
資本主義のもっと先の社会に進んで、社会主義・共産主義になったら貧しい社会になってしまった、窮屈な社会になってしまった、そういうことは絶対に起こりえないし、起こさない。それは党の綱領に詳しく書いてあることなので、ぜひ見ていただきたいと思います。
社会が発展するとともに、人間の考え方、価値観も大きく変わる
生徒から、共産主義の社会像についての質問が出され、志位委員長が答えました。
生徒 共産主義にもしなったとして、人間というのは差があって、怠けてしまう人と、しっかり頑張る人がいると思うのです。その時に怠けてしまう人が、働かずに何かを得てしまったり、怠けた人と頑張った人と差が出てしまったりというのは、社会の発展を止めてしまうのではないかと思うのですが、その点についてはどう思いますか。
志位 社会主義・共産主義の社会になったとしても、自分自身と、その家族、社会全体の生活を維持し、再生産するための労働が必要となることに変わりはありません。ただし、そうした労働の性格は大きく変わるだろうという展望を、マルクスはのべています。
資本主義のもとでは、少なくない場合、労働自体が苦痛で、多くの人々が苦しみながら働いているけれども、社会主義・共産主義では、搾取がなくなり、労働者が、自発的に協力して働くようになるもとで、労働自体が喜びにみちた、楽しいものに変わる。マルクスはそのことを、「自発的な手、いそいそとした精神、喜びにみちた心で勤労にしたがう結合的労働」と言っています。
つまり、社会が発展するとともに、労働に対する人間の見方、考え方が大きく変わるだろう。あまり「怠ける」というようなことを心配する必要がなくなるのではないでしょうか。
さらに、さきほどお話ししたように、労働時間そのものが短縮されるもとで、誰もが自由な時間を手にすることになります。そうした自由な時間ができたら、その時間を遊んで暮らそうという人もいるでしょうし、それもいいんです。自由な時間ですから、何に使ったって自由です。ただやはり、そういう自由な時間ができたら、多くの人たちは、自分の能力を自由に全面的に伸ばすことに使うのではないでしょうか。
さきほど、マルクス・エンゲルスの「各人の自由な発展が万人の自由な発展の条件になる結合社会」という言葉を紹介しましたが、一人ひとりがその能力を自由に全面的に発展させることは、社会全体をうんと豊かにして、社会全体の力を大きく増すことになります。そして、そのことは、一人ひとりの自由な発展の条件をますます豊かにする。こういう好循環が生まれてくることを、私たちは展望しています。こうしたなかで、人間の考え方、人間の価値観も大きく変わってくるのではないでしょうか。
人類の歴史を考えてみても、原始共同体の時代があった、奴隷制の時代があった、封建制の時代があった、そしていまは資本主義の時代です。それぞれの時代ごとに、人間の価値観も大きく変わってきているでしょう。奴隷制や封建制の時代には、人間の「自由」や「平等」はおよそ問題になりませんでした。しかし、今日の時代では、それが世界の大きな流れになってきているではないですか。
人類が、いまの資本主義社会の「利潤第一主義」の仕組み、搾取の仕組みを乗り越えて、新しい社会に進んだら、新しい社会にふさわしい新しい価値観、新しい考え方、新しい生き方を人間はもつことになる。私はそう考えています。 (つづく)
「N高政治部」 志位委員長の特別講義(9)
一問一答とメッセージ
高校生と視聴者のみなさんへ
特別講義の最後に、志位委員長は生徒からの自由な質問に答えました。一問一答を紹介します。
アメリカにはさまざまなゆがみとともに、民主主義の進歩的伝統も
生徒 今日の講演、すごく勉強になりました。さきほどから志位さんが言っている個性を重要視するとか多様性を重視する社会というのを探してみましたが、たとえば今、ユーチューバーなどは、個性が認められて職業としてお金を稼いでいると思います。そうしたものは全部アメリカ発で、アメリカが生み出した価値観だと思いますが、そう考えるとアメリカっていうのは何か共産主義化しているということになるのでしょうか。
志位 ユーチューバーとは別の話ですが、アメリカではいまとても注目すべき動きが起こっています。
それは、アメリカの若い世代、とくに20代から30代前半ぐらいの世代に世論調査をやり、「資本主義と社会主義のどちらがいいですか」と聞くと、「社会主義」の方が多いのです。いまのアメリカでは、格差と貧困がひどい。環境破壊の問題もあります。構造的な人種差別もあります。そういうなかで、より公正な社会をつくっていこう、格差拡大にも気候危機にも真剣に立ち向かわなければという流れが、若い人たちを中心に広がり、その人たちは「社会主義」を公然と主張しだしている。これは、たいへんに注目すべき動きではないかと感じています。
アメリカという国は、私も何度か行って感じますが、たしかに資本主義の一番の大国で、資本主義のいろんなゆがみも、多くはアメリカ発なんです。格差拡大もそうだし、気候危機もそうです。それから、世界中にはりめぐらせた軍事同盟をテコに、世界を制覇していこうという帝国主義、覇権主義の震源地もアメリカです。
同時に、人類で最初に民主共和制の国をつくったのはアメリカです。人権宣言を最初に発したのもアメリカです。人権、自由、民主主義の旗を世界で最初に打ち立てたのはアメリカなのです。奴隷解放という素晴らしいたたかいをやったのもアメリカです。ですから、いまもアメリカの民主主義の進歩的伝統というのはすごい力があると、私はアメリカに行くたびに思います。
私たちは、アメリカとの関係は、日米安保条約を廃棄して、本当の対等・平等な関係にしたいというのが大目標なのですが、やはり対等・平等でこそ本当の友人になれると、私はいつも感じています。支配・従属のもとでは本当の友情は生まれません。本当に対等・平等な日米関係をつくってこそ、両国民の本当の友情も育っていくのではないでしょうか。
アメリカには、悪いところとともに良いところもたくさんある。とても懐の深い国だと思います。良いところを学びながら、本当の友好関係を築いていきたいと願っています。
中国の経済分野での覇権主義にどう対応したらいいのか
生徒 さきほど中国の脅威に関するお話がありましたが、軍事的な脅威以外にも近頃「静かな侵略」と呼ばれる、中国資本が他国の土地を大量に買収したり、メディアに圧力をかけたり、そういった問題も日本含め海外で問題視されていると思います。そういった問題にはどのように対処したらいいとお考えですか。
志位 いま中国の覇権主義は、領土拡張という形だけではなくて、経済的にもいろいろな形で表れています。事実上、経済主権を奪ってしまうような形での国際的な関与もあります。途上国でいろいろな乱開発をやり、生態系を破壊するなども問題になっています。メディアへの圧力が外国メディアに及んでいることも看過できません。それらに対してはやはり、「国際的な民主主義のルールを守れ」ということを国際社会がきちんと言っていく必要があると思います。
中国との向き合い方は、たいへんに大きな問題です。おそらく近い将来、経済力の規模では、中国はアメリカを追い抜くことになるでしょう。世界最大の「経済大国」になった時に、その国が覇権主義と人権侵害をふるっていたとしたら、世界にとってなかなか大変な問題となるでしょう。
もちろん中国が、今後、どのような政治・社会体制を選んでいくのかというのは、中国の国民が決めていくことですが、同時に、国際的なルールにてらして、それを逸脱する行動に対しては、正面から理をつくして批判していくことが、とても大切です。
その努力をやらないで、軍事で対応するのは、軍事対軍事の悪循環におちいり、私たちは反対です。外交の力で、理をつくして問題点をただす努力を、粘り強く続けることが何よりも大切だと思います。
さきほども少しお話ししましたが、私が、中国と話し合った体験では、中国は理詰めの批判を気にします。「日本共産党の大会決議案から中国批判の部分を削ってくれ」というのは、批判が気になるから言うのです。中国は理詰めの批判を気にしているわけですから、気にしていることをきちんと言わなければいけません。そうして理性の力で間違いをただしていくことが大事です。そうしてこそ、日中両国、両国民の本当の友好関係をつくることができると、私は信じています。
経済関係についていえば、中国との経済関係をなくすなどということは、世界のどの国もできません。これはかつての米ソ対立とは違います。かつての米ソ対立というのは、どちらかが倒れるまでたたかうという関係だったのですが、今の中国との関係は、どちらかがつぶれたらお互いに困ってしまうわけです。経済的には深い相互依存の関係になっているわけですから、そうした関係であることをよく考慮しながら、国際的なルールを守れということを求めていくことが大事ではないでしょうか。
「最大多数を幸せにした人が最も幸せな人」(若いマルクス)
特別講義後に志位委員長は、司会の三浦瑠麗さんに促されて、高校生と視聴者に次のようなメッセージを語りました。
志位 今日は、特別講義のなかで、何回か、マルクスの話をしました。マルクスが17歳の高校生の時に書いた論文が残っています。「職業の選択に関する一青年の考察」という論文で、これは、どう職業を選ぶかについて若いマルクスが考え抜いて書き記したものです。もちろん、この論文は、彼が科学的社会主義に到達するはるか前に書かれたものですが、私は、たいへんに好きで、今日も紹介させていただきたい。
この論文のなかには、「最大多数の人を幸せにした人が最も幸せな人であり、そのなかでこそ本当の人格が完成する」という幸福観が書かれています。多くの人々の幸せのために、自分の人生を使う。それが最も幸せな人生であり、そのなかでこそ人格の完成もある。彼は、みなさんとだいたい同じ年代のたいへん若い時代に書いた論文のなかで、そうした決意を語っているのです。
私は、マルクスは、高校生のときに書きつけたこの決意を、生涯にわたって貫いて頑張りぬき、偉大な業績を残した人だと思います。
多くの人たちを幸せにする、そのことが一番幸せだというのは、立場の違いをこえて、一つの真実ではないかと思います。若いみなさんには、ぜひそういう人生を歩んでほしいと思います。
他の人たちを幸せにするという場合、それは大勢ではなく、まずは一人からでもいいと思います。一人からでも他の人を幸せにすることで、自分の幸せをつかむ。そういう道を歩んでほしいと願わずにはいられません。(おわり)
75%が「とても良かった」「良かった」と感想
特別講義の最後に多くの視聴者からアンケートへの回答が寄せられ、「とても良かった」が55・4%、「良かった」が20・3%にのぼりました。講義後に参加した高校生らから寄せられた感想を紹介します。
○私たちの質問にわかりやすく丁寧に答えてくださりうれしかったです。これからも共産党の主張や政策に注目していきたいと思います
○コロナ禍で資本主義が大きな岐路に立たされていることは事実です。日本を含め、お金をたくさん持っている人がカネ余りなどでさらにもうけた一方で、不安定な職に就かれている方や経済的に厳しい状況にある方などがさらに厳しくなっているということは紛れもない事実で、仕方ないで済ませてはならないと思っています。日本共産党の方々にはこうしたことについて、声をさらに大にして取り組んでいただけたらと思います
○共産党への理解が深まりました。志位さんご自身の優しいお人柄も好感をもてました
○ASEANのように、紛争問題を話し合いで解決できるようにしたいというお話が印象的でした。このような動きが、少しでも多くの国で行われることを願っています
○中国の脅威に対する志位さんの言葉の力強さに感激しました
○日本共産党というと少し怖いイメージがありましたが、今回の講義で少しだけ印象が変わりました。まだまだ、社会主義・共産主義には抵抗がありますが、今回は本当に良い機会だったと思います。少しずつ勉強を重ねて、政治について自分の頭で考えられるようになりたいと思います